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 ★トレーニングのヒント (鈴木 彰)  目 次 へ
 

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​ 002~005(2000.2.8~2.29配信) 「LSD」

 麻薬ではありません。「おい、今日はLSDやろうぜ」なんていうランナーのヒソヒソ話は誤解を招く恐れがありますので周囲には気を配りましょう。
 LSDとは Long Slow Distance ―  ゆっくり長く走るトレーニング方法です。どのくらいのペースを「ゆっくり」と言い、どのくらいの距離・時間を「長く」と言うのかは…十人十色、千差万別。

 LSDは古くからあるトレーニングですが、国内で爆発的に知れ渡ったのは故佐々木功氏の名著「ゆっくり走れば速くなる」(ランナーズ社)が刊行されてからでしょう。以後、まさに今日に至るまで20年近くもの間、日本中で「ゆっくり走ってさえいれば速くなれるんだよ!」「アホ、ゆっくり走って速くなるわけないだろ、遅くなるだけだよ!」という議論が絶えません。実のところこの議論は議論になっていないことが多いようです。LSD派も反LSD派もこの本の内容を正しく理解していない場合が圧倒的に多いからです。

 どうも強烈なインパクトのあるタイトルだけが一人歩きしちゃって、内容を理解し間違えている(ちゃんと読んでない!)だけでなく、勝手に内容を推測して決めつけたり(全然読んでない!)そういうのの又聞きや受け売り、聞きかじりの人が混じって、無責任に知ったかぶりして言い争っているだけというところがあります。この本のどこを読んでも「LSDだけやっていれば良い」などとは書いてありません。「LSDだけで強くなるのには限界がある」とは書いてありますが。

 LSDの効用は「身体資源の開発により、走るための身体をつくる」というところにあるとされていますが、私は、これは基礎持久力の向上であると理解しています。「なんじゃい、基礎ちゅうのは…持久力に基礎も応用もあるんかい?」…って、応用はありませんけど、スピード持久力というのがあって、その基盤となるのが基礎持久力です。このスピード持久力という言葉は、最近では、東京国際女子マラソンでの山口衛里選手(天満屋)の快走後、『ニュースステーション』に出演した武富豊監督がクリップ付きで話を持ち出したのですが久米宏氏の理解に及ばず(これは仕方ありません。専門じゃないんだから)中途半端な説明のまま終わってしまい、全国のランナーの間で「オイオイ、あの話はなんだったんだ?なんか秘密のトレーニングじゃなかったの??」ってことで一騒ぎありました。

 長距離ランナーの能力はスピード持久力の水準によるところが大きいと思うのですが、このスピード持久力は基礎持久力を基盤としてその上に乗っかって養成されるものです。往々にして、トレーニングが基礎持久力養成の範疇に留まりスピード持久力の水準が低かったり、スピード持久力を疎かにし、スピード練習ばかりに固執するランナー、アスリートというのは少なくありません。

 LSD派と反LSD派の中途半端な議論は、こういう不十分な理解によるところがあり、実際にそういうトレーニングをしているわけですから思ったような成果が出てこない場合も当然多いのではないでしょうか。

 と、いうことで少々引っ張っりますが、スピード持久力について正しい理解を得る前に、次回は基礎持久力についてもうちょこっと詳しくやります。 

 ★★★

 プロ野球の世界ではキャンプ情報が日々伝えられています。ここでは、よく「走り込んで足腰をつくる」ということが言われます。ここで言う「足腰をつくる」というのは野球に必要な筋力と持久力を養成することを意味するのですが、それでは「走り込んで」と言うのは…?
 名球会入りしたある投手は、毎日グランドを2時間も走り込んでいたという話を聞いたことがあります。(うっ、LSDか!)しかし、どうでしょう。野球のピッチャーが9イニングを投げ切るスタミナや150Kmもの速球を投げる筋力は、このような走り込みによって身に付けるものなのでしょうか。

 スポーツの持久力は、その競技に必要なスピードやパワーなどの強度と、その継続時間によって異なります。これらは、それぞれの競技に特有な「専門的な持久力」であると言えるでしょう。18イニングを投げ切った松坂のスタミナがマラソンでも通用するというわけではありませんし、ランナーのスタミナが
他のスポーツでも活かされるとも限りません。
 この専門的な持久力を養成するために重要なことは、基礎的な持久力を作り上げた上で、それを土台にして専門的なトレーニングを積んでいくということです。このことは筋力についてもあてはまります。そのために、ゆっくり、長く「走り込む」ことが必要なのです。

 「走り込んで足腰をつくる」というのは「風が吹けば桶屋が儲かる」というのと同じで、走り込めば全てOKと言うわけではなく、まず走り込むことから始め、足腰をつくるために次ぎの段階へトレーニングを進めていくということになります。前号でご紹介した「ゆっくり走れば速くなる」という理屈も同じ
ように考えていただければ分かりやすいのではないでしょうか。

 それではランナーにとって必要な専門的な持久力とは何かと言うと、これは一定の距離を速く走るために速度を維持する持久力、即ちスピード持久力になります。このスピード持久力の楚となるのが、ゆっくりのペースでより長く走る力、基礎持久力であるということになります。

 いわゆる走行距離の増大、たくさん走れば強くなれるというのは、距離を踏むことによって、この基礎持久力が強化されていくわけなのですが、ともするとランナーは、この能力だけあれば十分なのではないかと考えがちです。

 確かに初心者、初級者のうちには基礎的な持久力をつけるだけで結構走れるようになるものですが、これはもともと何も無いところから始めるからであって、ある程度までいくと限界があります。中級者以上になると、この壁にぶつかることが多くなり、今度はスピードが不足しているのだと考え、バリバリに
追い込んだトレーニングなどもしてみるのですが、これもどこかで無理がきます。ゆっくり走っているだけでは強くなれないばかりか、速く走っているだけでも強くなれないのです。

 こう言うと「それじゃあ、どうしたらいいんだよ!」って方も多いのでしょうが、それこそが長距離トレーニングの真髄。とても一言では語れません。一言では語れないので連載しているのですが、そこを敢えてコンパクトにまとめてお話すると、重要なのは「長期的、段階的にバランスの取れたトレーニングを実施すること。」と言うことになります。結局これだけじゃ何だか分かんないでしょうけど、その第一歩が基礎持久力の養成であるということを認識してください。またもや引っ張りますが、基礎持久力とスピード持久力の話はまだまだ続きます。とかく、ランナーの皆さんのご要望は、「どんなトレーニングをすればいいの?」と言った方法論に終始しがちなのですが、ここのところをしっかり押さえておくと後が楽ですよ。


 ★★★

  ここまで3回にわたり、LSDだけでは強くなれない、基礎持久力だけでは限界があるということをお話しして来ました。しかし、LSD派のランナーの方々からは「イヤ、そんなことはない。トレーニングはLSDだけなのに記録をグングン伸ばしているランナーはいっぱいいるぞ!」といった反論もあることでしょう。「あっ、ハイ、そうですね…」って引き下がってしまっては何をしているのか分からなくなってしましますので、ここでちゃんとお答えしておきましょう。

 まず、第一に、LSDは効果がないなどと言っているわけではないことをご理解ください。基礎持久力の向上には十分な効果があるということは間違いありません。そもそも基礎持久力というのはどんな能力なのかといえば、身体に酸素をより多く取り入れる能力や、その酸素を身体の隅々まで送る血液の運搬能力、さらにはその血液の通り道である毛細血管を拡張させていくことなどなどがあげられます。

 継続的な運動をしていなかった状態の人が、LSDなどによって走り始めると、このような機能が少しづつ向上していき、それに伴い2Km、3Km、5Km…と、だんだん長い距離を走れるようになり、更には同じ距離でも、より楽に走れるようになります。このゆとりの分だけ結果的により速く走れるようになるというのは事実です。ただし、これだけで、どんなに速いペースでもいつかは楽に走れるようになるのかと言えば、そうはいきません。やっぱり、初期のうちだけ、初心者・初級者の水準であるからこそ、こういうことがあるのだと言えます。

 それでは、どこまで向上するのかと言えば、これは一概に線を引けるものではなく、個人の潜在的な資質や年齢・性別などからくる基礎体力等によっても異なりますので難しいところです。中には1Km4分ペースくらいは全然OKだという方もたくさんいらっしゃいます。こういう人がマラソンなんかに取り組んでも3時間20〜30分くらいまでは平気で行っちゃいますし、SUB3も達成するようなこともよくあるので「LSDだけでも大丈夫!」という論拠にもなっちゃたりするんですが、誰でも必ずそこまで行けるわけではありませんし、そういう人も、もっと効率の良いトレーニングをすれば更に記録は向上するだろうということも言えると思います。

 第二に、トレーニングはLSDだけのランナーも、レースには出場している、というところがキーポイントです。レースもLSDのようにゆっくり時間をかけて走っているのならば別ですが、普通、一生懸命走るでしょ? このレースで受ける心肺機能や筋肉、神経への刺激は、LSDだけでは決して得られないものです。結果的にレースがトレーニングの代わりとなって、LSDとの相乗効果により、良い結果が得られる場合があるということです。「それじゃあ、トレーニングはLSDだけにして、後はレースに出ていればいいじゃないか!」ってことにもなりそうですが、これもやはり効率の問題です。より計画的に、段階的に、バランスの取れたトレーニングを行った方がやっぱり結果も良くなってきます。

 また、LSDだけでは向上しない重要な機能に、脚筋力;脚の筋力の持久性があります。ウルトラマラソンのように、ゆっくり粘っこくどこまでも走っていけちゃうような筋の持久性はLSDでも身に付きますが、もっとペースの速いレースに対応するためにはそうもいきません。必要な脚筋力は走スピード(ランニングペース)に比例します。速く走るためには、より強靭な脚筋が必要なのですがLSDだけで高速対応型の脚筋を養成するのはかなり厳しいものがあります。心肺機能はそこそこ強くなってきているけど、脚筋のレベルがそれに追いついていないために結果がイマイチというランナーは実は非常に多いのではないかと思います。これは市民ランナーに限らず、トップレベルのエリートランナーにも言えることなのですが…。このことは、あまり認識されていない日本式マラソントレーニングの一つの大きな課題であるとともに、実は日本人の体形的な、ある特徴も関係するのではないかと考えています。まだ、研究も十分されてなく、推論の域を出ていないのですが、だからこそ21世紀のトレーニングを考える上で重要な
ポイントになるかも知れませんよ!

 ★★★


 反LSD派の方々のランニング、トレーニングで良く見受けられるのが、一定のコースをハァハァ、ゼィゼイ言いながら、「んん!今日は○分○秒で行けた!!」ということで調子がいいの悪いの、強くなったのならないの、っていうやり方ですね。「長距離走やマラソンは苦しいスポーツである。この競技で
より良い成績を残すためには、この苦しさに耐え、慣れることが重要である。そうやって、とにかく以前より少しでもいいタイムで、一生懸命走ることが肝心だ。」という強い信念をお持ちの方々のトレーニング法です。

 トップレベルのマラソンランナーの間では経験的に「スタミナが入る」「スタミナを吐き出す」というようなことが良く言われます。「スタミナが入る」とはトレーニングによってスタミナを身につけること。そして、あの旭化成では、スタミナが入るトレーニングのベストペースを1Kmあたりで男子が3分
30秒、女子が4分00秒程としています。「ホーッ、やっぱり速いなぁ…」って、旭化成ですよ! 一線級になればマラソンのレースペースは男子が3分00〜05秒、女子でも3分30〜35秒ほどでしょうか。よく、較べてみてください。マラソンのぺースよりも随分と遅いペースでトレーニングをしてい
ることになりますでしょ? 日本最高記録を打ち出し、オリンピック代表の有力候補として売り出し中の犬伏孝行選手(大塚製薬)の40Km走も、タイムは2時間25分位だとか。これも1Kmあたりに換算すると3分40秒近いペースになります。念のためおさらいしておきますが、犬伏選手のタイムは2時
間06分57秒。ほぼ3分00秒ペースということになります。

 「スタミナを吐き出す」とは、トレーニングにおけるペースが速過ぎるために、せっかく"入れた"スタミナを消費してしまうことを言います。ちなみにレースで一生懸命走っている状態とうのは「トレーニングで入れたスタミナをレースで吐き出している」ということになります。トレーニングもしないで、レ
ースにばかり出ていても強くなれないのはこういうことで説明することもできます。ただし、これは経験的な"現象"ですので、正確には、スタミナを消費しているのではなく、「速過ぎるペースのトレーニングは、スタミナを向上させるどころか維持も出来ない」ということになります。これは難しい言葉で簡単
に言うと「無酸素的に一生懸命走ったって、有酸素能力は向上しないよ!」ということです。だんだん分かってきましたか?分からなくなってきましたか?

 トップクラスの選手にとって、スタミナを入れるトレーニングのペースは、それほど厳しい負荷とは感じられないでしょう。だからといって、いくらなんでもLSDみたいなものだともいえません。また、全力走とLSDの中間ってことで、たして2で割ったペースでいけばいいというようなものでもないです
よね。「一体、どのくらいのペースでトレーニングをすればスタミナが入るのか。」これは長距離トレーニングにおいて長年に渡り、世界中で試行錯誤されていることなのです。皆さんだけが悩んでいるわけではないのでご安心ください。そんなんで、とてもいっぺんにはご紹介できませんが、少しづつ、徐々に
理解を深めて行っていただきたいと思います。

 トレーニングとは何か? どんなトレーニングをすればいいのか? こういうことは、完全に確立されたわけではありません。それが完全に分かっちゃえば、後は持って生まれた素質で全部決まっちゃいますので、分からないうちが華です。そんな中で、考えたり、試したりしながら少しづつ、いろいろなこと
が分かってきて前へ進んでいく。それが醍醐味なのかもしれません。
                  





  
  

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