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 ★トレーニングのヒント (鈴木 彰)  目 次 へ
 

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​ 006~010(2000.3.7~4.4配信) 「レースペース」

 どのくらいのペースでトレーニングすればいいのか。―ここまでお話ししてきた中で、皆さん、どのようなお答えをすればご納得されますか。1Kmあたりの平均ペースで「あなたは○分○秒で行ってくださいよぉ!」というようにお伝えすれば宜しいですか?

 長距離走・マラソンにおいて、「全力で走る」という定義は非常に難しくなります。そもそも、そういう競技じゃ、ないんだから。学校のスポーツテストのように、1000mや1500mを倒れそうなぐらいヒー、ヒー言いながら走るのが全力でしょうか。それとも10Kmやハーフ、フルマラソンなどでし
っかりペースを守りながら自己ベストを更新するような走りが全力なのでしょうか。全力で走るということが、どういうことなのかよく分からなければ、速く走るとか、ゆっくり走るとかいうのが、どういうことかも実ははっきりわからないのではないでしょうか。

 それでは「100%で走る」という言い方はどうでしょう。「100%」とは、自分の可能性、全てを出し切るとかいう高尚なものではなく、目標とする距離で、目標とする最高のタイムを出すような走りをすることと考えてください。そして、レースにおいて、この最高のタイム(=100%のタイム)が出
るようなペースを「レースペース」といいます。当然、1500mの100%とマラソンの100%とは実際のペースは異なります。トレーニングのペースは、そのトレーニングの内容や目的に応じて「レースペースに較べて、どのくらい速い/遅いのか」で設定します。

 この「どのくらい」っていうのが問題なのですが、レースペースが100%ですから、それを基準に何%なのかで判断することができるわけです。「腹八分」(↓下の方のコーナーでもやりますけど)というのがありますが、これは満腹が10であるのに対し、だいたい8くらいという意味合いで、かなり感覚
的なものです。同様にトレーニングにおいても、今日は8分だの、7分の力だのって追い込み具合を加減することがありますが、この感覚は非常に重要なものです。しかし、これは経験によって養われる、しかも自分自身の全く個人的なものですから、ここではもっと客観的なお話をしていかなければなりません
ね。ズバリ、「何が、何の、何%なのか」あ、あ、あ、ややっこしい…。さて追い込み具合を加減すると、変化するものは何でしょう?("やる気"は除きます。)まずは「ペース」。当たり前でしょ?でも、そこが大事です。それから「心拍数」。ドキドキドキって脈打つ回数の増減ですね。そして「血中乳酸濃
度」。ん、ん、ん?これは、疲労物質である乳酸が、どのくらい溜まっているのかっていうことです。あ、あ、あ、難しい…。

 旧東ドイツの流れを汲むドイツのトレーニングでは、「血中乳酸濃度が○モルの時の速度の○%のペース、または最大心拍数の時の速度の○%のペース」などといった設定がなされていますが、そうやって綿密な計画を立てて走るというのは、イヤイヤ、そう簡単なものではありません。ちなみに前号でご紹介
した、旭化成や犬伏選手のトレーニングペースは、このような科学的な算出法と比較しても、ほとんど違いがありません。究極の経験知と言えるでしょう。マラソンニッポン恐るべし。

 まぁ、あんまり深刻に考えることもないのですが、こういうのが基本になっているということは知っていても損はないです。(こういうのが好きな人は徹底的にやってください。)昨今は、心拍数も、血中乳酸濃度も、以前よりは比較的簡単に計測できるようになりましたが、それでも、誰もが何時でも何処で
も簡単に利用できるわけではありません。結局、ウォッチで計るペースと自分の感覚が頼りということになります。問題は、それをどう利用するかですね。
 心拍数や乳酸値を測定したって、ウォッチでタイム計ったって、それをどーすんだよってところが分からなければ何にもなりません。速いの遅いの言ってるだけでは仕方がないのです。

 「今日は10Kmのレースペースの80%で16Km走る」その目的(科学的な根拠)まで押さえた上で、このようなトレーニング計画を作れるようになればホンモノです。

 * * *

 さて、前回の続きになりますが、レースペースを100%とした場合、その90%とか、80%というのは、どのくらいのペースなのでしょう。腹八分」なら感覚的には分かると思いますが、具体的なタイムはと言うと…??

 自動車を例にとると分かりやすいと思いますが、時速100Kmの80%は80Km、110%は110Kmですよね。これと同じことで、ペースというのは"速度"(ただし、人間の場合は秒速)で較べるのが基本です。しかしながら、秒速4mだの、5mだのって言ったって、よく分かりませんから1Km毎
のタイムで表示することになります。

 と、いうことで、今回は、その算出方法のご紹介からです。計算自体は難しいものではありませんが、速度とか割合という観念をしっかり認識してください。それでは紙と鉛筆、または電卓、もしくは表計算ソフトをご用意下さい。

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 1.レースペース(1Km)を秒に直す。
 2.秒速を算出する。=1000〔m〕/レースペース〔秒〕
 3.算出された秒速に係数をかける。
   80%を算出する場合=秒速×0.8
   90%を算出する場合=秒速×0.9
 4.3.で算出された秒速を1000mのペースに戻す。
=1000/3.で算出された秒速
  
 ───────────────────────────────
 
例:レースペースが4分00秒の場合
 1.4分00秒 → 240秒
 2.1000/240=4.167  
 3.80%を算出する場合 4.167×0.8=3.334
   90%を算出する場合 4.167×0.9=3.75
 4.80%を算出する場合 1000/3.334=300(秒)
              =5分00秒
90%を算出する場合 1000/3.75=267(秒)
              =4分27秒


 分かりましたか? あんまり細かいところまでこだわらなくても大丈夫ですよ。ちょっとくらい誤差があっても1秒くらいしか変わりませんから。

 それでは、今度は普段のご自分のトレーニングが、レースペースの何%くらいで実施しているのか、確認してみましょう。毎日100%の方も、いらっしゃるんでしょうけどね…。

 ───────────────────────────────
 
 1.トレーニングペースとレースペース(1Km)を秒に直す。
 2.秒速を算出する。=1000〔m〕/各々のペース〔秒〕
 3.割合を算出する。=トレーニングペース/レースペース×100
  
 ───────────────────────────────

例:トレーニングペースが4分45秒、レースペースが4分10秒の場合
 1.4分50秒 → 290秒   4分10秒 → 250秒
 2.1000/290=3.448 1000/250=4.00
 3. 3.448/4.00×100=86.2%                        

 分かりましたか?ここまでやっておいて何ですが、CSRの「トレーニングガイド21」に「トレーニングペース早見表」をアップしてあります。よく分からなかった方、面倒くさい方はこちらをご覧下さい。

 前述しましたように、1秒や2秒くらいずれたって、そんなに正確に走れるわけはないですから、あまり気にしないでください。それよりも、トレーニングの強度=追い込み具合というものをしっかり認識していただきたいと思います。80%のペース、90%のペースで走るということは、自分にとって、ど
ういうペースで、それはどのくらいの負担度があるのか。これが重要です。これも1%くらい違ってもそんなに変わりませんが、5%違うと全然違います。
 実際のトレーニングでは、強度が5%ほどズレているがために期待している効果が得られない=走り損状態ということがよくありますので、これは無視できませんよ。


​ * * *

 第6・7号では、レースペースとは「目標とする距離において、目標とする最高のタイムを出すような走りをする」ペースであると定義し、それを基準にトレーニングペースを設定するというお話しをしました。

 そうすると、今までに最高の走りをした時のタイム=自己ベストタイムというのは、まさにレースペースそのものであるということができます。それではトレーニングのペースを設定するには、自己ベストを基準として考えれば良いのでしょうか。でも、待ってくださいよ。自己ベストを目標タイムとしたら、
自己ベスト以上の記録は出ないのでは…?それならば、次のレースで達成したいと考えている目標タイムを基準にすればOKなのでしょうか?これは本当に難しい問題です。どのくらい難しいかというと、世界のトップレベルのランナーやコーチですら、この判断を誤ることがあるくらいなのですから。

 そもそも、これ程やかましくトレーニングのペース設定をやっているのは、これがトレーニング強度の目安になるからなのですが、前回、お話しましたように、一生懸命走っていても、その強度の度合がズレていると、意図したトレーニング効果を得ることができないという落とし穴が存在します。


 現在の自己ベストタイム(自分の現状の能力)と目標タイムとの間の格差があると、基準となるレースペースそのものが現実とかけ離れることとなり、結果として設定すべきトレーニングペースも大きく違ってきます。具体的には追々ご説明しますが、「理論的に85%水準で実施すべきトレーニング」を、現
在の実力よりも乖離した目標タイムを設定したことによって「数値上は85%(のつもり)だが、実際には90%水準で行っていた」というようなことが頻繁に起こり得ます。

 この度のシドニー五輪女子マラソン代表選考レースにおいては、2時間25〜30分くらいの実力の選手が多数、22〜23分台のタイムを出すためのトレーニングに取り組んでいたものと思われます。自己ベストを1分くらい更新するためのトレーニングでしたら、経験豊富な指導者と才能溢れる選手が、そ
の方法を誤ることは少ないのですが、このように1ランクも2ランクもレベルをアップさせるトレーニングを考えるには、トレーニングペースをどの水準で設定するのかが非常に重要な課題となります。「これまでにない、最高のトレーニングを消化した」ことで自信を持って挑みながら、撃沈してしまった有力
選手も少なくなく、(もちろん、その原因は様々でしょうけど)中には、トレーニングペースの設定が速すぎたという例もあるのではないかと思います。

 「40Kmを85%水準で実施する」このような意図がトレーニング計画の中で策定されていたとしても、目標とするタイムが、現在の実力と格差があったために、算出されたペースは、実際には能力の90%水準に近かった…。このようなことがあっても、トレーニングの実施そのものには、さほどの影響は
ありません。100%以上のペースでやるわけではないですから、85が90でも出来てしまうわけです。特に目標達成意欲が高く気力が充実していたりすれば尚更で、少々キツイかなって感じはしても、メニューを消化すること自体は難しくありません。「これまでにない、最高のトレーニングを消化した」と
判断するのは、こういう状況なのですが、実際の、身体の生理的な反応は85%の場合と90%との場合とでは大違いで、「こうすれば、こうなる」といった指導者の長年の経験を裏切る結果となることがあります。これはトレーニング効果においての話ですが、もう一つ、疲労の度合も同じことで、85くらい
の負荷による疲労と思っていたのが、90の負荷がかかっているわけですから結果がいいはずがありません。

 市民ランナーの皆さんでも、とにかく毎日、少しでも速く走ろうと思って頑張っているのに、結果がついてこないっていうケースは、ちょっとばかりレベルは違っても、同じような場合が多いのではないかと考えています。

 しつこく繰り返しますがトレーニングの強度は調整しなければいけません。その調整の度合は、これから少しづつお話していきますが、元となるレースペースの設定から間違っていたのでは調整の仕様がありません。現在の潜在的な能力と自己ベストタイム、それに、そこまで向上し得ると判断できる目標タイ
ム…これらを、どう折り合いをつけていくのか。これがレースペース設定の難しさです。とかくランナーは頭で先に、○時間台とか、○分台とかいった数字のキリのいい目標を立ててしまいますが、身体の方はそんなに都合良く反応してくれるわけでないことは言うまでもありません。

 * * *


箱根駅伝強豪校の某大学では、1Km:3分40秒よりも遅いペースでのトレーニングをLSD(Long Slow Distance)と定義しているそうです。いくらなんでも3分40秒とは…!? これは、なにをしてSlowである、ゆっくりであるというのか、という定義がはっきりしないことか
らくる「Slow」に対する主観の違いで、これがそのままJogと同じだよってわけではないとは思うのですが…。

 1Km:3分40秒というペースは、某大学のレギュラークラスのレースペース(10000m:29分、20Km:1時間分00分そこそこと仮定)からすると、ちょうど80%前後くらいになります。80%の強度を速いというのか遅いと、速くはないにしてもJogとはいかないでしょうね。

 そもそも、ランニングとジョギング、ランナーとジョガーというのがどう違うのかということもよく分かりませんが、一般に、ランの方がジョグよりも速いペースであるという捉え方はされているような気がします。ただ、その境目がどこにあるのか決まっているわけではないので、何をして、どのくらいのペ
ースをSlowであると、ゆっくりだと判断するのかというのかは定かではありません。

 通常、強度が75%を下回り、60%くらいまでになると、だいぶ無理のない、ゆとりのある走りになってきます。50%くらいまでいっちゃうと、ゆっくり走るよう意識しなければならないくらいになってきます。だいぶ強度に幅がありますが、市民ランナーの方が一般的に認識されているLSDというのは
このあたりの走りになります。これをランというのか、ジョグというのかは…さて?

 実際、ランとジョグとの境がどこにあるのかという議論は、ランナーの皆さんの間では、よくあるようです。ただ、この場合、それは1Km:4分ペースだとか、いや、5分だとかいう自分の経験(感覚)からくるものを基準にしてペースに区切りを設けようとしているようで、当然個人差があるでしょう。4
分でラクラクの人もいれば5分でキツキツの人もいる。こういう状況で4分か?5分か?って議論をしてもあまり意味はないような気はしますね。

 ちなみに「LSD」と「Long Jog」は同じなのか、違うのか??LSDはゆっくり2時間以上、Long Jogは、それよりも少し速いペースで60〜90分くらい、とか言う人もいますが、やはりこれも人によっていろいろでしょうね。要は、強度というものは、自分自身の能力からくる基準であ
って、一般論で語ったり、標準化できるものではないってことです。

 前出のの某大学では、LSDの他に、ポイント練習の合間の日は2〜3時間のLong Jogを実施しているとのことです。もともと、スピードとか、スピード持久とか、スタミナとかいったことにもしっかりとした定義があるわけではなく、その区切りのラインが研究者や指導者によって、ちょっとズレが
あるなというのは感じます。そんなんですから、なにがLong Slow Distanceなのか、とかいうことも、そんなに真剣に考えなくてもいいことなのかもしれません。

 大勢で走っていて、ちょっとキツキツ顔の人に「これくらいのペースにつけなくっちゃ…」なんて自分の感覚で言うのは、かなり無責任なアドバイスだということになりますから、お気をつけて。

 * * *

 私が、取り敢えず走ることにほんの少し才能がありそうだなと認識するようになったのは、小学校6年生の時、市内の小学校が集う連合運動会(陸上記録会のようなもの)で1000mに優勝したことからでした。1〜2ヶ月くらい前に代表選手を選出し、それから毎朝、種目毎に担当の先生(専門家ではなく
たまたま割り振られたらしい)の指示を受け、朝練習をしていたのですが、この時やっていたのが1000mのタイムトライアル。毎日それだけです…。

 「1000mのレースに出るのだから、毎朝、1000mのタイムを計る」ある意味では非常にわかりやすい練習です。テレビドラマや漫画なんかの陸上モノを見ていると、こういうシーンは多いですね。コーチがストップウォッチ持って、選手のタイムを計る。「よし、このタイムならイケるぞ!」「ダメ!
もう1回!!」とか言っちゃって…。おそらく知らない人は、ほんとに陸上部ってのは、毎日こういうことやってんだろうと全然違和感なく思っているのでしょう。(担当の先生も、そう思っていたに違いありません。)いや、それどころか、ランナーの中にでさえ、いまだに、そう思ってる方もいらっしゃるか
も知れませんね。
                           
 さて、今までにお勉強してきたことで言うと、こういうのは「レース距離をレースペースの100%で走るトレーニング」だということになります。こういうのは全然ダメだとか言っているわけではないのですが、本来、段階的なトレーニングの中でバランスを考えて取り入れるべきものであって、最初から最
後までこれだけじゃイカンだろってことなんです。ましてやLSDだけやってればイイという話でも全然ありません。

 トレーニングは、段階的に、しかもバリエーションも考えた上で行っていかないと身体的な向上はもちろん、精神的にも続きません。ここで言う「段階的」と「バリエーション」ということの意味は、非常に奥が深いのですが、「タイムのあまり良くない人や健康のためにやっている人はLSDだけでOK。競
技者や記録を狙っているランナーはバシバシ、スピード練習!」という考え方は、ちょっと違うようです。

 何のために走り込むのか、何のためにスピード練習を取り入れるのか。そもそも長距離走・マラソンにおけるスピードとは何なのか。これを理解することがポイントです。って…うーん、わかったような、わかんないようなポイントですよね。さすがに小学6年生が1ヶ月で1000mを走るのとは訳が違いま
すが、何年も走ってきて、もっと記録を伸ばしたいのだけど、何かトレーニングの方法がつかめないという人には、ちょと引っかかるものがあるのではないでしょうか。全然引っかからない人は、これから一緒にお勉強して1年後くらいに、もう一度読み返して見てください。

 ということで、長いこと引っぱているうちにマラソンシーズンもほぼ終わっちゃいましたけど、来週から少しスピードについて考えていこうと思います。
 今現在、皆さんがイメージしているスピードという概念と同じか違うか分かりませんが、初心者・初級者・高齢者だからとか、健康指向だから・ウルトラ志向だから・そんなん、好きやないから、とか言う方も、取り敢えずはお勉強してみてください。多くの方に有益だと思いますよ。



  
  

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