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 ★トレーニングのヒント (鈴木 彰)  目 次 へ
 

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​ 042~046(2000.11.24~12.22配信) 「ウォーミングアップ」
 

 19日の東京国際女子マラソン ― スタート45分前になってようやく国立競技場内のトラックがウォーミング・アップ場所として開放されました。特にそれよりも早く開放することでの不具合があるようにも見えなかったのですが、この時間なんですね。それ以前は競技場廻廊を使っていいことになってい
たようですが―。

 ウォーミング・アップ ―通称「アップ」そういえば中学2年の体育祭の時に、水泳部のMちゃんに「なに、それ?」って聞かれたことがありました。水泳ってアップやらんの…?準備運動するだけ…?ん、アップと準備運動って同じなの、違うの…??

 「アップ不足で走れなかった」という話はよく耳にします。また「アップはどんなにやっても、やり過ぎということはない」というように教えられた気もします。そうか、アップはとにかく、徹底的にガンガンやればいいのか…ってそうなんでしょうかね。

 名ランナー、名指導者の経験や研究者の報告などによると、意外にも「そんなに一生懸命やんなくても大丈夫だよ」ってのが結構あります。なんらかのトラブルでアップ不足でレースを迎え、ほとんど諦めかけていたのに思わぬ記録が出た…。そういう例が枚挙にいとまがないのも事実なのはいったいどういう
訳なんでしょう?

 ある程度のランナーになると、アップの方法も、自分なりのこだわりが出て来て、だんだん定型化してくるものです。しかし、なぜ・なんのためにやるのか・どんな効果があるのかをしっかりと認識しないと、定型化するだけじゃなくて儀式化しちゃうようなことにもなりかねませんね。

 ウォーミング(Warming)ってくらいですから、筋肉さんにちゃんとお仕事をしていただけるよう、身体の体温を上げるってことが重要なんでしょうね。それから心臓さんや肺さんの準備も同じことでしょう。ちゃんと働いていただくだけでなく、故障の予防というのも大切なことです。大雑把な目的は
こんなところなんですが、もっと細かい理屈を考えていけば、どうすると、どこがどうなるんだってこともちゃんと理解しないといけません。うん、ここらへんのことは次回よりもう少し詳しくやっていきましょう。

 アップやった → 走った → ダメだった → アップ不足だったに違いない…って具合に、なんでもかんでもアップ不足のせいにして、ヘンに納得して安心して終わらせちゃう選手や指導者も少なくないような気もします。

 大切なレースでは「アップは念入りに」ってことになるのは当然なのでしょうが、アップは持ち得る力を如何なく発揮するためのもので、持ってない力をどこからか呼び寄せる魔法ではありませんので念のため。

 ※ ※ ※

 ウォーミングアップ、続きます。

 身体をウォームアップさせる、つまりアップとは体温を上げることだと前回お話ししましたが、もっと正確に言うと、「筋温」― 筋肉の温度を上げるということが「身体を温める」ということの意味になります。これに対して「皮膚温」― 皮膚、つまり身体の表面の部分の温度というのが別にありますが、
これはスポーツのウォームアップとはそんなには関係ありません。

 筋肉を温めれば速く走れる…ってわけでもなのですが ― 冷えた筋肉は硬くて効率良く動かない。☆これを温めると軟らかくなって速く効率良く動くようになる。 ― とうのが基本です。難しい言葉で言うと「筋の収縮」の効率の問題ってことの問題になります。

 さて、これが、アップをやればやるほど、つまり筋の温度が上がれば上がるほど収縮が速くなり、しいてはとてつもなく速く走れるようになるのかと言えば、さすがにそんなことはありません。勿論、完璧なアップができていれば、自分の「持ち得る能力」を「瞬時に最大限」発揮する準備は整うことでしょう。
100mを全力で走るような場合はこういうことが必要ですね。しかし、長距離走やマラソン、さらにはウルトラやトライアスロンのような場合はどうなんでしょう。そもそもが始めから全力で行う種目ではないわけですから、そんなに完璧な準備が必要なのかとよくよく考えてみると、???ってことにもなり
ます。

 筋肉の状態だけを考えるならば、まぁ、スタート時点での頑張り具合(ペース・スピード)に支障が無い程度に準備ができていればいいのではないか― そういう考え方もでてきます。 それがどのくらいかはもちろん個々によって違いますから、今日、自分は、どのくらいのペースで走り出すのか、そういう
ことをちゃんと考えた上でそれを妨げないような筋肉の状態を作っておけばいいのではないのかということです。ということは、レースペース、しいてはレースの距離によって準備が違ってくるわけですね。

 また、ある説によると、「そもそも長距離・マラソンは体内の"熱"との勝負であるのだから、事前に必要以上に筋温を上げておくのは却って良くない」とするようなこともあるようです。オーバーヒートの原因になるというわけですね。なるほど、確かに夏場のマラソンなんかは、体内の熱をいかに外へ逃がし
てやるかってことが大きな課題になるので、そういうこともあるのかもしれません。暑ければレースペースも必然的に遅くなりますから、筋肉の準備もそれに応じてほどほどで十分ってこともあるでしょう。

 これも冬場のレースはそうもいかんだろってことになるのでしょうが、冬でも記録を狙うとなると、レース中にはオーバーヒートは大きな問題となりますので、ほんとのところはどうなんだろうってもっと深く考えていかないといけませんね。

 ウォーミングアップは「やればやるほどいい」ということはなく、「やり過ぎということはない」わけでもないような気がします。「必要なだけ適度にやる」ということが重要ですね。気温やレースペースを無視した定型化には注意が必要です。

 ※ ※ ※

       
 いやー藤田選手、アッパレ、アッパレ! 不思議なもので日本男子マラソン界は昔から何度も危機的状況に陥りながら突然救世主が現われて、それから急激にレベルが上がっていくってことを繰り返しているんですね。今回もいよいよ「その時」が来たのか!さすがは世紀末…。

 つーことで、「ウォーミングアップ」編を暫く続けるつもりだったんですがさすがにこれだけのビックニュースを解説しないのももったいないですから、今週はちょっとわき道にそれます。いつもそれてる気もしますけど…。

 2時間06分51秒というタイムの価値については皆さんも十分にご理解いただけることかと思いますので省きます。その速さもさることながら、今回、藤田選手の快走で目をひいたのはその強さです。ただし、これはアベラ(エチオピア)・李(韓国)選手をはじめとしたビックネームを退けたからという意
味ではありません。正直、五輪出場組がこの大会にベストコンデョションで臨んでいるはずもないからです。

 さて、それでは"救世主"藤田敦史の強さはといえば…

 30Km以降の切り換え

 30〜35Kmの5Kmのスプリットが14分44秒!以後も1Km3分前後のペースを押し通し、日本最高記録を意識し始めたと思われるラスト4Kmは2分55秒前後でいっちゃってます。 昨今の日本選手のレースは、絶好のコンディションの中、ペースメーカーがお膳立てした1キロ3分00秒ペース
でなんとか25〜30Kmまで連れてってもらい、そこからヒュ〜ンと失速…それでもなんとか凌いで前半の貯金にモノを言わせ2時間08分台、って感じが主流でした。それでも世界ランキングからするとベストテンの下位から20位くらいまでには入っちゃうので、ともするとマスコミからはオリンピックで
も入賞圏内、少し頑張ればメダルも!って話が出てきちゃうのですが、もう根本が違っちゃってるわけですね。コンデョションが悪くてもソコソコのタイムを出す選手、タイムが悪くても必ず勝負にカラむ選手、なんてのが世界にはゴマンと…そんなにはいないですね、何十人もいるわけですから。   

 「前半のハイペースにもかかわらず後半切り換えが出来て勝負できる!」こういうことが出来たというのは日本では、瀬古・中山・谷口・森下、そしてQちゃんといったようなホントに世界で通用した選手だけです。こういうのを本当の強さと言うんですね。

 ちなみに今回のレース展開、予てから藤田選手が「尊敬する選手」として名を挙げていたイタリアのフィス選手のそれに似てるなと思われた方も多いのではないでしょうか。「ああいう選手になりたい」といったイメージを長年にわたり温め、「ああいう選手になるため」のトレーニングを継続してきた結果で
もあるのでしょう。来年の世界陸上ではフィスを振り切る藤田敦史を見たいですね。

  常識を越えた"スタミナ"

 テレビ中継では、解説の伊東国光さん、谷口浩美さんが再三に渡り、藤田選手の位置取り(ポジショリング)の悪さや動き過ぎを指摘していました。これは本人がどの程度意識していたのかはわかりませんが、「スタミナの温存」というセオリーの中では基本中の基本であり、お二人のご指摘は正論中の正論で
す。「そんなこと言ったって、ちゃんとタイムを出して優勝したじゃねえか!」って言われる方もあるかもしれませんが、「あんなことしなければ、終盤もっと余裕が残っていたはず」ということも間違いありません。言い換えれば「非常に効率の悪い走り方をしていながら、タイムも出し、勝負にも勝った」と
言うことになります。これは褒められたことではありませんが、凄いことではあります。2時間06分くらいなら、1キロ3分ペース程度ならそんなこと気にしなくても大丈夫ってことなんでしょう。藤田敦史、現段階でまだまだ潜在能力に余裕あり。

  暑さに強いのは…。

 今大会の気温の高さはマラソンでベストを狙う状況ではないことは明らかで入賞ラインの低さや2時間20分以内で走った選手の数を見ても過酷な条件であったといえます。そんな中での日本最高記録の樹立― セビリアの世界陸上6位入賞でも証明されたように「暑さに強い藤田」は自他ともに認めるところ。
その秘密は現段階では明らかではありませんが、世界で闘うためには大きな武器になることは間違いありません。

 ちなみに「暑さに強い」というのは、高温の影響によるマイナス幅が小さいということで、暑い方が速く走れるというわけではありません。「暑さに強い」選手は、好コンディションではタイム的にはもっと速く走れる余地が残されていますが、勝負に関しては他の選手に対する有利性が縮小することにもなり
ます。その点において藤田選手の真価が問われるのはまさに今後ということになるでしょう。

 「後半のペースアップ」「ポジショリングを気にしない」「暑さに強い」―こういうことは真似しようと思って真似できることではありません。その意味では藤田選手の走りっぷりは、誰にでもお手本になるというわけではないようです。ここらあたりが強い選手と弱い選手との違いみたいなものなんだってこ
とで、市民ランナーの皆さんは、この逆くらいに考えるためのご参考にされた方がいいのかも知れません。

 ※  ※  ※

 3日の福岡国際マラソン ― 1Km3分前後といったハイペースで推移する序盤戦でしたが、優勝した藤田選手は「あまり速いとは感じなかった」と頼もしいコメントを残しています。そりゃ、後半もっと上げてんだから相当余裕があったのでしょう。

 一般に、マラソンの10Kmの通過は、10000mのベスト+1分半〜2分と言われています。2時間06分台の条件;30分00秒前後で10Kmを通過するためには単純換算で28分00秒〜28分30秒の走力が必要ということになります。今じゃ、27分台持ってるマラソンランナーなんか、うじゃ
うじゃいるわけですから、このくらいで通過したって余裕こきまくりってところなんでしょうね。スピードマラソン時代と言われる所以です。

 さて、こういう選手たちが、10000mのトラックレースで27〜28分台のタイムを狙っていく時と、マラソンで最初の10Kmを30分で通過しようとしている時と、同じ準備=ウォーミングアップをしているのかというと…やっぱり違うでしょう。

 かつて、ある学生トップアスリートが、初マラソンとなる海外レースで、ノーアップ(アップを全然やらないこと)で2時間15分台で走ったということがありました。彼曰く「最初の5Kmを15分半くらいでいく予定だったのでそれくらいならアップ無しでもいけると思った」 ― その選手の当時の50
00mベストは13分40秒台くらいではなかったかと思います。また、関東インカレのロードレースがまだ30Kmだった時代、気温が30度近くまで上昇する中、やはりノーアップだったW大の選手がワン・ツーフィニッシュを決めたことがあります。「こんなに暑ければスローペースになる。アップなどし
なくても十分付いて行けるだろう。余計な消耗をする必要はない」 ― これがW大陣営のコメントです。実際に、他校の選手が黙々とアップを続ける中、日陰でゴロゴロし、スタート15分前の最終コールから軽く体操を始めるという超余裕の構え。「あんなんで走れるはずがない!」と誰もが思ったところが
先入観の恐さなんでしょうね。

 ウォーミングアップで、いったいどれくらいの準備が必要なのか、ということについては諸説いろいろある上に個人差もあります。そんな中でひとつ基準にしたいのが、スタートした時点の「初速」に十分対応出来るかどうか、ってところではないかと思います。どんなレースをしようと思っているのか、どの
くらいのタイムを狙っているのか ― そういう作戦面からも、当然スタートしてからのペース(強度)が決まってくるはずです。レース距離が長ければ長いほど、初速は遅く(強度が低く)なり、それに適応するための準備が簡略化されるだろうってことは計算しなければなりません。更には「どんなにやって
もやり過ぎることはない」と信じられているアップにも、大きなデメリット=「消耗」ということがあるのです。これについては次号!

 ※ ※ ※

 ウォーミングアップの最終項です。今日のお題は「アップはどんなにやっても、やり過ぎということはない、ということはない…のか?」 はぁ…?って要するにアップをすることのデメリットがあるのかどうか、ということです。
前回までそれとなく示唆してきた「アップをすると体力を消耗する」なんてことがあるのだろうか、ということですね。

 ちょっと自信のあるランナーなら、そんなしょーもないこと問題にならんよと思われるかもしれません。私も現役の頃はそう考えていました。しかしですね、実際、フルマラソンで35Km過ぎあたりからバックリきちゃったりしてそれがエネルギー切れ・筋グリコーゲンの枯渇とかいうことであったりするの
ならば、さあ、これから42Km走ろうって前に何KmもJogして余計なエネルギーを消費しちゃうのも如何なものかと、本気で考えてみる必要はありそうです。

 レース中だって、右・左に動いてみたり、後ろ振りかえって見たりするのは「無駄な動き」とされて、たったそれだけのことなのに、その消耗が終盤に影響するってことになっています。アップは必要な動きだからって言ったって、カロリーを消費したり筋肉を使うことには変わりないでしょう。最後の5Km
や2.195Kmの、あのヘロヘロの状態を経験したことのある人なら、いや言い換えれば経験せざるを得ない実力の人ならば、少しでも余計な消耗は命取りというのも頷ける話ではないでしょうか。ホノルルマラソンなんか見ててもホテルからスタート地点まで、張り切ってJogで行っても、肝心のレースは
途中から歩いちゃうような人がたくさんいたりするんですから。

 もっとも実力云々で言うならば、何もマラソンに限った話ではありません。5Kmでも10Kmでもハーフでも、走り切るスタミナが十分でない初心者・初級者ならば、安全に走るという意味からも留意した方がいいですね。ベテランランナーの見様見真似で走る前から張り切りすぎちゃうのもどうかと…。

 この話は、Jogで体温を上昇させることと、エネルギーの消費に関する事柄を考えてみようと言うことであって、レース前に何の準備も必要ないということではありません。故障の予防のためには、十分なストレッチングなどが必要なのは言うまでもないことで、それもJogで体温=筋温を上げてからやっ
た方が効果的であることも無視できません。そういううことも含め、更には前回取り上げた「レースの初速」を考慮して、最も効率の良いアップの方法をあらためて見直してみる必要があるのではないかということです。レースの距離や目的、実力やその日の体調、作戦によって自ずと一人一人のアップの方法が
変わってくるというのも当然ということになるはずです。トレーニング同様、アップにも基本はあっても、それ以上に個人差があり、画一的であったり必要以上に定型化させる必要は全くありません。