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み〜んな違う。身体と心の「個人差

 
ランニングを始めるきっかけなんていうのは、結構いい加減なものです。ところが、ご存知のように「はまる」人というのが必ず出てきます。専門誌を買ったり、インターネットで検索したりして、いろいろ勉強して、知らないことを知って、もっと長く、もっと速く走れるようになりたいー そういう欲求が高まり、そのうちに究極の真理を求めるようになります。究極の真理、要するに、「どうすれば一番いいのか」という答えが欲しくなえるわけですね。一番いい方法― トップレベルのランナーや指導者、研究者なら、それを知っているに違いない…と。ところが、結論から言うと、ご期待の「誰にでも必ず当てはまる究極の真理」などというものは存在しません。

 どんなトレーニングをすればいいのか。どうすればもっと長く、速く走れるのか。具体的に詳しく知りたい。そんなけなげな、ささやかな願いを叶えるためにこのサイトはあるのですが、その方法は一つではなく(もちろん究極でもなく)一人一人に違ったやり方があるんですよ、と
いうことです。既に究極のトレーニングが存在するのならば世界中のチームや選手が、こぞって実施しているはずでしょう。ところが実際は、国によって、チームによって、指導者によって、選手によって、みんな違うトレーニングを実施しているわけです。

これは、
誰でも一人一人顔が違うように、よく見ると手の形や指の長さ、肩幅、腰の位置、全部違いますでしょ?生物学的に人類の形態はしていても、細かいとこまで見てみるとみ〜んな違うんです。そうすると、当然ながら、ランニングに影響する心臓の機能・脚筋の組成・血液の状態なんかも、人によって全然違うに決まってますよね。全然違うんだから、全く同じことやっても、同じ結果が出てくるわけではないんです。み〜んな一人一人違う、そのような「個人差」があるということを認識することがとっても重要なのです。

 
 
もちろん、生物学的にヒトであることの基本はあります。多くの場合、不特定多数の皆さんにご享受できるのはこの基本の部分なんですが、それを究極かつ普遍的な真理だなんて思ってはいけません。基本は基本。まぁ、非常に幅が広い中の平均みたいなものです。平均年齢とか平均年収とかって結構いい加減ですよね。確かに平均はソコなんでしょうけど、上から下まで、ものスゴイ差があって、結局は自分との比較対象でしかなく、そっちを優先して考えるものではありません。問題は、自分の場合はどうなのかってことで、個人差に応じた対応が必要なわけです。

 どんなトレーニングをすればいいのか。1ヶ月に何Km走ればいいのか。週に何日走ればいいのか。そんなことはレベルが違えば勿論のこと、同じレベルの人でもみ〜んな違っちゃうんです。「それじゃ、どうすればいいんだよ!」なんて怒られそうですが、それを自分自身のトレーニングの中で見つけていくことがポイントなんです。無論、簡単なことではありません。いろいろ勉強して、いろいろ試してみて、失敗して、また、チャレンジして、そうやって見つけていくわけです。


 精神的な部分も同じことで、モノの考え方が違うように、集中力や持続力なんかの度合いも違います。あがりやすいとか、プレッシャーに強いとかいうのもあります。同じところをグルグル回っていても平気な人と、景色が変わらないと退屈でかなわんという人と、どちらがいい・悪いじゃなくて、自分の特性を知り、それに合ったトレーニングを考えたり、弱点を克服していく必要があります。


  そういうことですから皆さん、このコーナーでもいろいろと情報のご提供はしますけど、鵜呑みにしないでくださいね。「個人差」−自分の場合はどうなのか−これがキーワードです。なんですか、冒頭から無責任なように聞こえるかもしれませんけど、このことが唯一の真理かも知れません。


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心臓で走るのか?脚で走るのか?  

  「健脚」とか、「脚(足)が速い」とか言われる人たちは、別のところでは「心臓が強い」とか言われたりします。確かに走ってると、足が棒のようになってフラフラしたり、ハァハァ、ゼィゼィで心臓がバクバクしたりするのはご存知の通り。それでは実際に、「走る」というのは脚(足)のお仕事なんでしょうか、心臓のお仕事なんでしょうか?

 結論から言うと両方です。と、言うよりも、身体の機能全てをフルに動員して走っているわけですね。「脚」と言われる部分には、脚の筋力や筋の持久力、神経系の部分などの機能があり、「心臓」と言われる部分には酸素を活用する機能などがあります。これらは、独立した機能ではありますが、自動車のボディとエンジンのように、持ちつ持たれつの関係にあり、その他のパーツの性能ともかみ合って、全体の機能を発揮するようになっています。

 トレーニングとは、このような諸機能を発達させることで、ランニングの成績(パフォーマンス)を向上させるものです。ところが、いかなるトレーニングも多くの機能を同じ程度に効率よく向上させてくれるほど都合よく考案されているわけではありません。あるいはやり方次第ということもあります。従って、知らず知らずのうちに、いろいろな機能のアンバランスといったことが、実は当たり前に起きています。単純には、脚が強い割には心臓(心肺機能)が弱いとか、あるいはその逆とか、そういう場合があります。

 こういうことを細かく見ていくと、それぞれのランナーの特性というものが判ってきます。先天的に強い部分と弱い部分、トレーニングによって鍛えられた部分と鍛えられていない部分、そういうのが混ざり合って、そのランナーをつくりげているわけです。ですから、同じタイムをもっていても、同じ特性を持っているわけではなく、同じ特性を持っているわけではないので、トレーニングの課題も違ってくるのは当然のこととなります。


 さて、そのトレーニング課題ですが、物事は何でもそうなんですけど、「長所をよりよく伸ばし、短所を補う」方法と「短所を改善し、全体的な底上げをはかる」方法があります。どちらがいいということはありませんが、潜在的な伸びる余地がどれだけあるのかは重要なことです。先天的であれ、後天的(トレーニングの成果)であれ、高い機能も低い機能も、より向上する余地と限界とがあります。ただ、どこの部分がそうなのか、トップレベルのランナーや指導者、研究者なんかでも躍起になっていろいろやっても見極めるのは大変難しいことなのです。


 このようなことから、効率の良い・悪いトレーニング、バランスの良い・悪いトレーニングというものが現実に存在していると思います。ランナーは得てして好きなトレーニング・得意なトレーニングをしたがるものですが、これは、長所を伸ばすという観点からはOKなのですが、場合によっては、既に開発余地が残り少ないとか、ほとんど鍛えられていないウィークポイント(弱点)が全体的な底上げを阻害しているという可能性もあります。

 繰り返しますが、これは個人の持つ特性によるものですから、トレーニングというものは単純に人のマネをしたりしてもダメなんです。マネをする、というよりも学ぶのは、どこに着眼して、どういうことをやっているのかということなんです。「なぜ、そういうことをやっているのか」「じゃあ、自分はどうすれば良いのか」そういう発想ができるようになってくることが重要です。"メニュー例"などを見る時には特に気をつけたいポイントですね。

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休むが勝ち!? 回復力が勝負を決める
 

 世の中には、もって生まれた資質やセンスが勝負の大半を占める世界があります。それに較べると、ランニング・長距離走・マラソンでは、本人の努力でけっこうなところまで行きつける可能性をもっているということは事実です。

 しかしながら、これは、単純に、やればやるほど向上するという意味ではありません。トータルの練習量や走行距離などと、ベストタイムのアップは確かにある程度比例します。それでは何がなんでも、徹底的に距離を伸ばしてやろうとムチャクチャ走り続けていればいいかというと、残念ながらそれは違います。


 「ドラゴンボール」という漫画に「スーパーサイヤ人」っていうの出てきますでしょ?(知らない方、ゴメンなさい…)メチャクチャやられても、しばらく休んでると今まで以上にパワーアップして復活しちゃう便利なヤツです。まぁ、漫画だからね、って馬鹿にしたもんじゃありません。元来、人間(生物)の基本的な仕組みは実はこのようになっているのです。

 人間(生物)本来の防衛本能、何としてでも生き抜こうとする能力には、ある種の"攻撃"(ダメージ)に馴れる(適応する)ということがあります。これまでに経験したことのない"攻撃"を受けると、その時はやられてしまいますが、そのダメージから回復する過程で、今度、同じ"攻撃"を受けても大丈夫なような抵抗力がつくようになっているのです。

 そして、トレーニングとは、まさに自分自身にこの"攻撃"=「トレーニング負荷」をかけることによって、より強靭な適応力を身に付けることなのです。ただし、攻撃が強すぎたり、続きすぎては、やられっぱなしで十分適応している暇はありません。負荷に適応するためには、適当な回復期間を設ける、休むことが必要なのです。

 「適当な」というのは、休み過ぎても、休み足りなくても、せっかく付けた適応力を失ってしまうことを意味します。したがって、トレーニングをして強くなる、ということは、トレーニング負荷の質・量と回復力とのシーソーゲームだと言うことができます。こういう仕組みがわかっていると、留意しなければならないポイントというのがはっきりしてきます。この点において間違いを犯しているランナーというのは意外と多いですね。回復を無視したハードトレーニングをしている場合、十分な負荷となり得ない強度で延々とトレーニングを重ねている場合、回復を名目に、鍛えてきた諸機能が低下するほど休養し過ぎている場合等々、せっかく一生懸命トレーニングしているのに、ちょっとした考え違いで結果が出てこないのはもったいないことです。それではどんなトレーニングを、どのくらいやればよいのかというと、それを考えていくのが自分自身のトレーニングプランを作っていく、ということになのです。現状に応じた、自分自身にとってもっとも適当な負荷と回復を期すようなトレーニング、それが大切なのです。

             

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スタミナとスピード

  長距離走の世界では、スタミナがあるとかないとか、スピードがあるとかないとかいいますが、それではスタミナとはなんでしょうか。また、スピードとはなんでしょうか。
 科学的にいうと、有酸素的能力がどうして無酸素的能力がこうして…って話になるのですが、それをもってしてもスタミナとスピードを完全に定義することはできません。もともとこれらは科学的な用語ではなく、かなり漠然とした観念的な言葉であるといった方がいいかもしれません。ところが面白いことに、このスタミナとスピードという用語を使った方が話が通ることは多く、長距離走・ランニングの共通語みたいなものと考えていくと結構便利です。ここでは、割り切って共通語としての認識を確認しておこうと思います。
 
 まず、「スタミナ」については、皆さんが捕らえている持久力という考え方で大方結構だと思います。持久力があった方が長く走れる、という考えで、だいたいですがOKです。それでは持久力とはなんでしょうか。何を持久させるのでしょうね。ここでは、持久力を考えるに当たり、半分は科学的に、半分は便宜上、次ぎの3つの持久性を定義します。

 @ 基礎持久力
 A スピード持久力
 B 筋持久力

 「基礎持久力」と「スピード持久力」とを区別し、更に厳密なペース設定をするためには、各々のランナーの血中乳酸濃度を測定した上で検討する等の必要がありますが、とりあえずここでは触れません。大まかには、「基礎持久力」は、有酸素的な持久力、より長く走る能力であり、LSDや、持続走的なトレーニングで養われます。これをスタミナと考えてもいいでしょう。
 「スピード持久力」は、同じ有酸素的な持久力でも、より水準が高くなり、無酸素的な状態に近づく、あるいはやや突入するようなレベルでのスピード(走速度)を保つ持久力だとイメージしてください。
 これら2つが主に心肺機能に主眼を置いた持久性であるのに対して「筋持久力」は筋肉の持久性を意味します。筋持久力は、長い距離を走る脚力を維持していくのですが、スピード(走速度)に応じて水準を高めていく必要があります。ここが重要です。

 さて、「スピード」の方ですが、これはちょっと難しいですね。まず、第一に、長距離走におけるスピードとは、100mを何秒で走れるか、といったようなスプリント能力や、ラストスパートに必要な瞬発的な疾走能力とは違います。長距離走におけるスピードは、ある距離を走る場合の速度=走速度;ペースと定義します。「スピードがある」とは、水準の高い走速度を持続させて走ることができる、ということになります。しかしながら、例えば「800mに高いレベルの記録を持っていても5000mの結果に直結しない」とか、5000mのスピードがマラソンに活かせるとは限らない」といったことがあるように、どのようなスピードがどのような距離に必要なのかは検討の余地が残っています。いづれにせよ、持ち得るスピードを活かすためには、それに必要なスピード持久力を十分に向上させることが重要です。

 一般に、持久力があるから速く走れるとは限りません。また、スピードがあれば、より長い距離で良い成績をあげるとも限りません。  トレーニングは、いわば「基礎持久力」「スピード持久力」「スピード」というピラミッド型の積み木を積み上げていく作業です。そして「筋持久力」は積み木の素材、耐久性(高く積んでも壊れない)と思ってください。これらは、バランスよく、というよりも、下から順番に、しっかり積み上げていかなければなりません。

                            

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市民ランナーのための「期分け」のススメ
 

 トレーニングプランを考える前に、競技者(アスリート)ではなく、市民ランナーの皆さんのレースに対する考え方をしっかりと確認しておきたいと思います。それは、あまり先を考えず、短期的に一つ一つレースをこなしていくのか、長期的な展望を持ってから、中期・短期の取り組みを考えて行くのか、ということです。

 前者の方法では1つのレースに対して短期的なトレーニング計画を策定していくことになりますが、そのデメリットとして、中長期的にみると短期計画の寄せ集めのような形になり、大きな展望をを失いがちになるということがあります。更には、腰を据えた鍛錬期間を設定できないために、強化の伸び幅に自ずと限度があるといえます。

 1つのシーズンを長期的に考えるトレーニング理論に「期分け」という考え方があります。「目的別に期間を定め、分けて順番にやる」― これが期分けの考え方です。期分けは、あるレース、またはある時期のレースに調子のピークを合わせ最高の結果を生み出そうとするトレーニングプランの考え方です。そもそも人間の体調には波がありますから、1年中最高の状態を保ち続けることはできません。そこで、その波のピークを年に1度か2度、作為的に意図した時期につくりあげようとするものです。従って、1本のレースに対して数ヶ月もの期間を費やすことになります。そんなまどろっこしいことやってられないという方もいるかと思いますが、あくまで"最高"の結果を求めるためには重要なプラニングです。

 市民ランナーの方々の場合、一年中、毎週のようにレースに出続けている方も少なくないと思います。それが楽しみで走っていらっしゃる方にはあえて期分けはおススメしません。ここで言う「最高の結果」とは競技者(アスリート)的な意味合いでの勝負や記録のことです。ですから、レース出場そのものが目的や楽しみである場合にそこまでする必要はないでしょう。毎週のようにレースに出ているが、継続的に自己ベストを更新し続けている、年に何度もピークがある、とおっしゃる方もいらっしゃるでしょうが、それは厳密には"最高"の状態とは言い難いのではないかと考えています。「Best」ではなく、「Better」の状態ですね。ちゃんとやれば、もっと出る!ということになります。

 こういうランニングライフも本人がよければそれでいいと思います。期分けは特に鍛錬期はきつくて面白くないですからね。これで強くなるんだという意気込みがないと辛いものです。ただ、そういう市民ランナーの方々も、例えばマラソンで「別大マラソンに出たい」とか「大阪国際女子マラソンが見えてきた」とか「何が何でもサブスリーを達成したい」というのであれば、「Best」の選択をしてみてはいかがでしょうか。

 ついでに言っておくと競技者(アスリート)の中にも、期分けが出来ていないがために十分な結果を残せないでいるケースは多々あります。期分けは、年間を通して考えると、どうしてもレースの重要度を取捨選択せざるを得ないため、ある程度の割り切りを必要とします。それが、どうしても出来ない選手、チームというのがあるわけですが、こういう点も、競技に対する根本的な取り組み方、方針の問題ということができると思います。

 

                                 

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トレーニングプランの基本1 長期プラン
 

 さて、トレーニング計画を立てるにあたり、いったいどれくらいのスパンで考えていけば良いのでしょうか。もし、可能であるのならば10年・20年といった単位で考えるのに越したことはありません。年齢が低ければ低い程、目標が高ければ高い程、長期計画のスパンは長い方が有効です。ただし、この場合は、トレーニングプランというよりも、長期的な目標の設定、といったほうが良いでしょう。

 正直言って10年以上ものスパンで綿密な計画を立て、遂行していくことは極めて困難です。しかし、長期プランを立てることの意義は他にあります。「焦らずじっくり、段階を追ってやる」ということを明確にすることです。素質ややる気があればあるほど、選手も指導者もその時点での最高限の結果を求めてしまいます。中学では中学チャンピオンを、高校では高校チャンピオンを目指し、常に考え得る最大の努力(トレーニング)をしてしまう。そのことが直接悪いのではなく、その結果として、重要な基礎段階のトレーニングが疎かになったり、将来的に身体的にも精神的にも焼ききれた状態に陥ってしまう危険性を伴います。競技生活そのものがオーバーペースになってしまうわけですね。長期プランはそのような状況を避け、確実に目標を達成するための効率的な制限速度を設けるわけです。

 とは言っても、日本のシステムは学校・企業等が中心になっているため、進学・就職のたびにチームが変わり、指導者が変わり、目標が変わるといった特色があります。このため、特定選手にこのような長期プランを提示するのは事実上極めて困難なことです。また、実際、中学生や高校生に対して、10年・20年スパンでモノを考えろっていうのも難しい話で、それぞれの指導者の度量と緊密な連絡が必要なところです。

 しかし、このような取り組みは諸外国においては多くの競技種目において見られます。日本がジュニア期には優勢でも、オリンピックでは通用しないスポーツでは国を挙げての長期強化プラン(英才教育)を実施しているケースが多々あり、グローバルな視点から見ればこの点は日本の競技スポーツのあり方についての課題といえるでしょう。


 さて、多少、話がズレましたが、10年は無理でも、3・4年程度の計画は明確にした方がいいでしょう。いつまでに、どこまで引き上げるのかという目標を掲げるのです。一生懸命やってる1年1年を繋ぎ合わせて3年間をつくりよりも、初めから3年間を2等分した方が効率的です。また、これによって1年、あるいは1シーズンの目標が明確になってきます。

 計画というのは当然、頭の中で考えるものですから、こうなったらいいな、という理想的な長期計画は結構簡単にできます。意欲的に、高い目標を立て、絶対に達成するんだと意気込む姿勢は必要なことですが、そこは頭の中でのこと。実際に長期計画を基に中期・短期計画を策定してみると結構、1年・1シーズン当たりの達成目標がきつくなってきます。そこを頑張ってトレーニングを積んで行く中で、故障が長引いたり、結果的にそのシーズンの目標を達成できなかったりということも出てきます。計画策定が難しいというのは、このような際、そもそも計画に無理がなかったか。目標が達成できなかった要因は何か。また、それは今後克服できるかを十分に検討した後に計画の修正を正しく行えるかどうかどうかという点にあります。

 周到な長期計画と建前的なスローガンとは違います。3年計画でサブスリー達成!という目標を設定するのはどちらも同じですが、日々のトレーニングが本当に3年計画の一部になっているでしょうか。意外と半年単位くらいの付け足し付け足しで進行して、結果的にできた・できなかたで終わってしまうことも少なくないということにも留意してください。

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トレーニングプランの基本2 年間計画

  年間計画を策定するにあたり、まず念頭におかなければならないのが、その年の試合日程です。当然、どこそこのレース(競技会)でこれくらいの成績を…という思惑が頭の中を駆け巡ります。年間を通して、全ての競技会で最高の結果を出してやろう、という意気込みは良いのですが、実際、バリバリ練習してガンガン結果を出して行くというのは意気込みだけではどうにもなりません。

 ご承知の通り、トレーニングは今日やったことが、明日、結果として出てくるわけではありません。また、漫画ではありませんから、短期間の秘密の特訓や新必殺技を開発することでどうこうなるものでもありません。そうなると、ある程度腰を据えたトレーニング期間を設けて周到な準備をして行く必要があります。その根拠となるものがトレーニング理論であり、適切な計画を立てることができるか。計画通り、トレーニングを遂行できるか。トレーニングの進度に応じて、適切な計画の修正・変更をすることができるか。こういったことが指導者や選手の力量を表すということができます。

 そのトレーニング理論ですが、どんな分野でもその世界には数多くの理論やらノウハウやらがあり、どれが一番いいとか、正しいとか正しくないとか、大騒ぎしているものです。長距離走・マラソンのトレーニングも例外ではありません。従って、ここで提示する方法が究極のトレーニング理論だなんて思わないでくださいね。とは言っても日本の長距離トレーニングはどこへ行ってもそんなに大きな違いがあるわけではありません。これは、そこそこ完成度の高いノウハウができ上がっており、広く普及しているという状況を意味します。

 この「日本マラソントレーニング」と呼ばれる方式はリディアード式と呼ばれるトレーニング法の日本的発展型と言えます。その主な特徴は、走り込み→スピード練習→仕上げ→調整→レースと、期間を分け、段階的に取り組んで行くことです。「なんだ、当たり前だろ、そんなの」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、当たり前だと思うくらいこの方法は広く浸透しているわけです。まぁ、せっかくですから、この機会にしっかりとお勉強し直してみてください。

 さて、この方法は、1つの重要なレースに向けて、長期計画を立て、遂行していくということが基本です。従って、1年間に設定できる重要レースは1本か2本に限定されます。この重要なレースにピークを合わせるためには、その他のレースの重要度を落とすか、出場しないことも考え合わせなければならないこともあります。このへんのやりくりが年間計画の難しさであると言えます。


 更に具体的に詳細に年間計画を策定するためには、次項以降のそれぞれの期間の位置付けとそれに取り組む日数を考慮して、ピーク時期から逆算して強化開始時期を決定してください。
 


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トレーニングプランの基本3 走り込み
 

 「走り込み」という言葉は様々なスポーツで使われますが、陸上競技・長距離走・マラソンにおける走り込みというのは、本当に徹底的に走るんだ、走り込むんだって強いイメージがあります。人間の潜在能力というものは、それに気付いていないからこそ潜在なのであって、実際、物凄いものがあります。一度にどのくらい走れるのか、1ヶ月にどのくらい走れるのか、というのもそうで、自分で勝手に決めた限界とか常識とかいう線を取っ払うと、けっこうなことができるものです。

 そうは言っても、走り込むこと自体が目的ではありませんから、何のために走り込むのかという"目的"を明確に理解する必要があります。目的とは競技水準を上げることであり、そのために走り込むという"方法"を用いて、ある身体機能を向上させるわけです。この段階で向上させる必要がある身体機能とは、ズバリ、「有酸素能力」(ムチャクチャおおざっぱに言うと持久力)と「脚筋の持久力」です。

 ここで注意しなければならないのは、長く走るための持久力と、速く走るための持久力は同じようでほんの少し違う、ということです。市民ランナーレベルでも月間走行距離が1000Kmを越えたり、100Kmを越えるウルトラマラソンを無難に完走される方もたくさんいらっしゃいます。こういう方達が10Kmやフルマラソンでも好記録を出すかといえばそうとも限りません。これをスピードの違いと解釈する向きもあるようですが、このレベルではスピード云々というよりも、持久力の水準が違うと考えた方が良いと思います。ここでは便宜上、「長く走るための持久力=基礎持久力」と「速く走るための持久力=スピード持久力」と区別して説明しましょう。〜あくまでも便宜上ですよ。そんなに科学的な解釈ではありませんが、トレーニングの実践という部分では役に立ちます。

 意外と、走り込みトレーニングが、基礎持久力の範疇で終わってしまっていて、結果に結びつかない例は多いのではないかと思います。無論、基礎持久力は基礎中の基礎ですから、これなくして次の段階へは進めません。しかし、ここに留まっていたのでは、レベルの向上を望むのは難しい、ということになってしまいます。

 基礎持久力の養成のためには、なんといっても、長い距離をゆっくり走ることが有効です。LSD(Long Slow Distance)などがこれに当たりますが、また、ペースを意識せずに余裕を持って行う距離走や時間走などの持久走も一般的です。多くのチームが、夏期合宿など行っているのは、こういう方法ではないかと思います。

 どれくらいを"長い距離"とするかは、競技レベルや目標とする種目の距離によっても違ってきますので一概には言えませんが、この段階では、速いペースで短めの距離で切り上げてしまわないよう留意する必要があります。それを走り切るためには、厳密なペースの設定や集中力よりも、リラックスして楽な気持ちで、余裕を持って走ることを心がけることが重要です。

 通常、ここから始まる新しいトレーニングサイクルは、重要なレースが終わった直後か、その後の休養の後であるでしょうから、身体機能を一からしっかりつくり直すという意識をしっかり持ってください。ある程度の競技力があると、この基礎持久力の養成は不必要に感じることもありますが、次ぎのスピード持久力や筋持久力の養成のための基本練習としての重要性を認識しなければなりません。

 スピード持久力を養成するためのトレーニングは、基礎持久力のためのトレーニングを十分積んだ後に実施します。ここでは、"適切な距離(時間)"を"適切なペース"で走ることで持久力を養成していくのですが、具体的に、どの位の距離(時間)をどのくらいのペースで実施するのかについては極めて難しいところです。まさに長距離トレーニングの成否はここのところの設定にかかっていると言ってもいいかもしれません。

 問題中の問題はペースの設定です。まず、このトレーニングの意図が、「効率の良い有酸素的ランニングの速度で実施する」ことであることを理解する必要があります。この"効率の良い速度"がどのくらいであるのかを明確にするために、本来ならば、生理学的にお話しすべきなのでしょうが、基礎理論の解説だけでも膨大な量になってしまう上、その評価も実は定まっていません。また、それが理解できたにしても実際のトレーニング現場での応用の問題もありますので、その点については他に譲るとしましょう。まぁ、世界中の研究者や指導者、選手が試行錯誤の最中と言ってもいいかもしれません。そうやって世界のレベルというのは徐々に上がっていくのだということも言えます。


 

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トレーニングプランの基本4 脚筋力の養成

 走り込みの、もう一つの目的に脚筋力-脚の筋持久力-を養成する、ということがあります。いわゆる「脚をつくる」と言われることです。通常、走り込み期のトレーニングプランを考える場合は、走る距離とペースの検討が中心となります。これは、基礎持久力やスピード持久力養成のために、心肺機能など生理的な反応がトレーニングの目的のメインとなるためで、脚をつくるためには、どのような方法が必要か、というようなことはあまり考慮されません。

 一般的には、持久力養成のための走り込みの中で、脚づくりは自ずと十分達成されると認識されています。また、初めから、走り込みは脚をつくるために行うのだと認識している指導者・選手もいますが、これは、スピード持久力の養成と、筋持久力の養成は裏腹で、トレーニングの中ではどっちがどっちと一概に言えない部分もあるということを示しています。

 そもそも、基礎持久力・スピード持久力と、筋持久力は持ちつ・持たれつの関係にあります。特にこの時期に限って必要なそれぞれの能力は走り込みによってまぁまぁバランス良く発達するので、その区別はあまり問題になりません。しかし、これらは本来、別々の物であり、いつまでも、どこまでもそのバランスが保たれているとは限りません。むしろ、一般的に日本のランナーは、筋持久力の方がスピード持久力に較べて劣っている傾向にあるように感じます。日本マラソントレーニング方式で培った日本選手の心肺機能の能力(スピード持久力)は非常に高い水準にありながら、それを十分に補うだけの筋持久力が養われていないのではないでしょうか。

 国内でも、よく「山間部出身の選手は強い」というようなことが言われます。これはジュニア期や現在の基礎トレーニングの中で行う起伏地での走り込みによって、筋持久力が十分に発達しているということだと思います。ただし、これは筋持久力が、スピード持久力を上回っているから速く走れるのではなく、スピード持久力を発揮するのに十分な筋持久力がある、ということです。

 リディアード式トレーニングの中には、有名なヒル・トレーニングという脚筋力を養成するプログラムがあります。また、旧東ドイツのトレーニングの中には、起伏を利用したインターバル走やトラックで行うドリルが組み込まれていました。日本のトレーニングの場合は、地形的な問題と認識不足から、このような取り組みは十分ではないようです。

 筋持久力はランニングスピードの土台となるものです。従って、トレーニングプランが進行するにつれ、走り込みに必要な筋持久力・スピード練習に必要な筋持久力・レースに必要な筋持久力と段階的に養成する必要があります。

 しかしながら、脚筋力(筋持久力)養成のための具体的なプログラムというのは、実は確立されていません。そもそも、心肺機能系の能力に較べて、筋持久系の能力は、その測定方法すら確立されていないのですから、科学的に、どのくらいの人にどのくらいやればいいのかとなると、実は、なかなか胸を張ってご教授するのは難しいところなのです。前出のリディアード式にしろ、旧東ドイツ式にしろ、ある程度の方法は知られていますが、どちらも職人技的なところがあって、それをきっちり伝授されている日本の指導者はおそらくほとんどいないと思います。ただ、言えるのは、いづれの方法も、傾斜地や起伏、坂道などを利用して負荷をかけることと、もも上げ走やつま先走等のドリルを取り入れていることは共通しています。このへんをヒントにしながら日本の実情にあった方法というのを考えていきたいものです。
 


 
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トレーニングプランの基本 5スピード練習
 

 さて、またまた不明瞭な「スピード」という言葉が出てきてしまいました。まず、なによりも、ここでいうスピードとは、スプリント能力ではありません。100mのベストタイムを向上させたり、ラストスパートに強くなるためにスピードトレーニングを実施しようというわけではないのです。スピード練習は、そのスピード=走速度の水準そのものを上げることを目的とします。しかも、取り組む種目によって必要なスピードの種類も異なります。

 スピード練習を考える時に、基準となるのは、取り組む種目の目標タイムから導き出される速度、「レースペース」です。ハーフマラソンより短い種目では通常、設定するレースペースは有酸素的な持久性を越えた速度になります。まず、スピード持久力を高められるだけ高めるのが基本ですが、それを越える範疇はスピード練習で無酸素的な持久性を高めていくことになるわけで、当然、短い種目ほどその度合いは高くなります。ついでに言っておくとマラソンになると、トップレベル以外はほとんどそういった領域にレースペースは入ってきません。しっかりスピード持久力を養成しておけば、スピード云々はあまり重要な課題ではないわけです。

 スピードトレーニングの方法としては、インターバルトレーニングとレペティショントレーニングが広く知られているところです。これらの違いは、セット間の休息の長短ですね。インターバルの方は、短いJogで、完全に回復しないうちに次ぎの疾走に入りますので、疾走速度にも限度があります。レペティションの方は、完全回復を待つので、1本1本をほぼ全力走と設定するのが普通です。

 

 
*インターバルトレーニング
   
 1000m×5本(200mJOG) 
 ・総走行距離の合計がレース距離 レースよりやや速いペース
 ・レースに必要な無酸素的負荷を心肺にかけ、総合計がレース距離
  になることで、レーススピードに対応する脚筋の持久力を養成

 3000m(1000mJOG)+2000m(600mJOG)+1000m 
 ・レースよりやや遅いペースで総合計がレース距離より長く
 ・ハイレベルのスピード持久力の養成
 ・最後の1000mだけレースペースより速く、無酸素的な負荷をかける

 400m×10〜15本(200mJOG)
 ・レースよりかなり速いペースで無酸素的な負荷をかける
 ・心肺、脚筋ともに強い負荷がかかるので、総合計はこだわらない

*レペティショントレーニング

 3000m2000m1000m 休息15分 
  ・レースペースか、それよりやや早いペースで強い負荷をかける
 ・最初の3000mはレースに近いシチュエーションになるので、仕上げ
  のトレーニングに用いる

 繰り返しますが、これらは、あくまでも例です。距離・総合計距離・ペース・休息・本数などを増減してアレンジすることで、いかようにも、様々な意図をもって設定することができます。留意事項として、もっとも重要なことは、「失速しないこと」です。レース距離を分割して実施しているわけですから、イーブンペースで走り切ることが大原則です。特に2000m以上の距離では注意してください。また、ペースは、目標タイムから算出しているわけですから、大きく遅れるようでは、効果は期待できません。そもそも、設定通りのトレーニングが消化できないということ自体、設定が間違っている・体調が悪い・目標タイムが現実的でない、等の要素が考えられ、いづれにせよ中止するか、考え直す必要があります。

  中学生・高校生、一般のクラブなどの合同練習等においては、同じ設定で集団で実施し、力の無い選手がポロポロこぼれて、後ろの方でヒーヒーいいながら、ダラダラ走っているような状況が頻繁に見られます。こういうのは、トレーニング効果という意味では正直いって、あまり期待できません。ただ、精神的な鍛錬の場にはなっているかもしれませんが。でもこれは、ジュニア期の、しかも、レベルがかなり低い場合だからこそ有効なのであって、いつまでも、こんなことやっていてはいけません。

 このようなトレーニングは、かなりキツい負荷がかかりますので、1回あたりの設定と同時に、全体計画の中で無理の無いプラニングが出来るかどうかがポイントです。もちろん、ある程度の負荷がかからなければ、効果も期待できませんから、キッチリやって、キッチリ回復することが重要です。個人差がありますが、こういうトレーニングのやり過ぎで心身ともに疲れ切っている選手というのも、よく見かけます。回復が十分でないのに次ぎの負荷がきてしまうんですね。

 最後に、スピード練習は、走り込みによって十分な持久力をつけた後にはじめて有効なトレーニング方法です。走り込み期には、スピードを失う不安感がよぎるものですが、年間を通して頻繁に取り入れるような計画は、一見バランスが取れているように見えるものの、実はあまり効果的ではありません。そのことは、期分けの意義を考えればお解りいただけることと思います。


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トレーニングプランの基本6 仕上げ
 
 ここまでに、スピード持久力・筋持久力・スピードと、それぞれ期間を分け、時間をかけて養成してきました。これ以上、新たに養成しなければならない機能はありませんが、これでトレーニンング計画の進行が全て終わったわけではありません。これまでのトレーニングは、それぞれ一つのポイントに的を絞った、いわば"点"のトレーニングであったと言えます。その"点"を一本の線で全部結んで形にしようとするのが仕上げ期(この言い方は極めて便宜的に使っています。)のトレーニングです。よくよく考えてみれば、走り込みにしろ、スピード練習にしろ、これらがレース本来の形態からはやや離れた、部分的なトレーニングであることは容易に理解できると思います。

 点を線で結ぶ、総合的なトレーニングは、よりレースの形態に近くなります。そう、タイムトライアルなんかがが最も一般的なその方法です。タイムトライアルは、その名の通りタイムにトライする、試合の無い時期の記録会的な要素を持つような印象の強いトレーニングで、結果=タイムの良し悪しだけが評価されがちです。しかし、総合的なトレーニングという意味合いでは、諸機能が上手くかみ合っているかどうかをチェックすることが重要です。従って、ここでは速く走れればそれでOKというのではなく、以下のポイントをチェックしてください。

 ・目標とする種目より短い距離で、レースペースか、それよりやや速いペースをあらかじめ、はっきり設定する。
 ・ 設定ペースで落差無く走り切ることが第一目標。前半貯金して後半ペースが落ちるような状態は、ゴールタイムが良くてもNG!

 この時期のトレーニングは、もちろんこれだけやっていればいいわけではありません。これから調整期にかけて、トレーニングの量そのものは自ずと減少してきます。この時期の留意点は、これまでに養ってきた諸機能、特に有酸素的持久力の水準を落とさないことです。期分けにおいては、どの時期もそうなのですが、その時期のポイントを押さえながら、前の時期に養った能力を維持する、ということが重要です。特に、仕上げ期には、総合的な能力のチェックを課題としているわけですから、こりゃ、いかん…と思った部分の修正が必要です。思ったようにペースが上がらない。後半失速する。と、いうような状況がある場合には、これまでのトレーニングの何かが十分でなかったということになります。全面的にやり直す、ということは不可能ですが、微妙な調整は出来ます。焦らず、トレーニングプランの修正を計りましょう。


 

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トレーニングプランの基本7 調整

 
目標とするレースが近づくにつれ、そのレースに調子の波が最高点に達するよう意図的に合わせていくのが調整期のトレーニングです。一生懸命トレーニングをして、どんどん力をつけていく。それだけでここぞという肝心な時に最高のパフォーマンス(競技結果)が得られるかというと、それは難しいようです。

 もちろん、それなりにそこそこ走るというのはできます。それほど厳密な調整期間を設けなくても、ベストではないけど今日のレースはまぁまぁだったな、というようなレースは結構あるものです。しかし、ここで取り上げるのは、ベストパフォーマンスを、狙った大会で出すためのもので、そのための長期計画であるわけですから、調子のピークを意図したところに持って行く調整期のトレーニング(ピーキング)の重要性はしっかりと認識してください。

 よく、本番に強いとか弱いとか、大きな大会に強いとか弱いとか、力以上のモノを出すとか、力を出し切れないとかいったようなことが言われます。これらは往々にして精神的な要素として語られることが多いようです。確かにそういった部分も大きく影響しているとは思いますが、それを含めての調整そのものを失敗していることがかなりあるのではないかと思います。更に言うと、調整方法そのものを勘違いしている、間違っている。そして、そのことに気付かないままレースに臨んでいる選手というのが、思いの他、たくさんいるのではないでしょうか。

 調整期間における最大目的は、疲労を取り除くことです。これがなかなか、できるようでできないものです。目標とする大会が近づくと、精神的にはかなりハイな状態になり、疲労の感覚が鈍くなることがあります。また、大事なレースを控えた強迫観念や、調子が上がらない不安などから、つい練習をやり過ぎてしまい、疲労を取り除くどころか増大させてしまう例もしばしば見られます。

 最高の調子、最高の結果を出し得る筋肉の状態とは、十分に疲労が抜けたフレッシュな状態のことです。通常、体系的なトレーニングが継続されている限り、筋肉がこのような状態を保っているということは、まずあり得ません。従って、調整期には意識的に疲労の除去に努めなければなりません。「自分は疲れていない」と言い張る選手もいますが、そんなことはあり得ないのです。

 疲労を除去する方法としては、単純に考えるとトレーニングの量を落とすことが考えられます。この考え方は基本的にはOKです。「休む」と言ってもいいですね。ところが厄介なことに、「休み方」というのが実はまた難しいところなのです。調整期に練習をやり過ぎてしまう選手は「休むと力が落ちてしまう」という不安を抱える場合が多いのですが、これも、あながち間違いではありません。確かに休むと力は落ちます。しかし、1日休んだくらいで全く走れなくなるほど力が落ちるわけではありません。それなら2日ならどうでしょう。3日なら?4日、5日…。

 この当たりはムチャクチャ個人差があります。何日休んでも大丈夫なおトクな選手もいれば、2日休むともうダメっていう場合も。また、Jogだけやっていれば疲労は抜けて力は落ちないというタイプもいれば、2日Jogすると次ぎがキツいといタイプもいます。量は落としても質は保つ必要があるタイプも多いですね。本当に笑っちゃうくらいバライティに富んでいるのですが、けっこう選手も指導者も、そのことに気付いていない場合が多いものです。

 チーム全員でメニュー通りに同じ調整・同じ休み方をする。たまたま、その方法に合ったタイプの選手は試合でよく走り、不幸にも合わなかった選手は力を出し切れない、おまけに、アイツは試合に弱いなんて烙印を押されちゃう、ということが実際に随分あるのではないでしょうか。「休み方」は試行錯誤の中で見つけていくしかありません。普段のトレーニングの中や試合の度に、自分のパターンを研究していくわけです。「試合が近づくと練習が減るから嬉しい」なんて言ってるジュニア選手もいますが、それで力を落としている場合もあるかもしれませんよ。

 また、レース直近に最終的に負荷をかける、いわゆる「最終刺激」を入れる、という方法も一般的ですね。前日に1000mを1本、全力で、ってヤツです。これは生理的なメカニズムは、まだまだ研究の余地が残っていて、はっきりとコレコレこうです、というお話はできないのですが、酸素負債をはじめ、筋肉・神経系にも、あらかじめレース同様の負荷をかけて準備しておこう、てな感じです。

 経験的には、この最終負荷の効果は確かにあると思います。ただし、シチュエーションが必要です。第一に、何日前に何をやるのかについては、種目によって個人差があること。前述の「前日に1000m×1」というのは、おそらく最もポピュラーな方法で、あれこれ考え無しで、とにかくそういうもんだと思ってやっている選手も多いと思います。しかし、実際には、1〜4日前に、距離も1000m・2000m・3000mなど、パターンを変えてやってみると、反応も違うことがわかります。これもいろいろ試してみないとわかりません。

 第二には、ある程度、フレッシュな状態で最終負荷をかけること。疲労の除去は、レースではなく、最終負荷に間に合わせるようにした方がいいでしょう。最終負荷は、距離は短いものの、かなり高い水準で行いますので、疲労が残っている状態では、十分な追い込みができないばかりか、最終負荷の疲労までプラスして持ち越してしまいます。これでは、ただ、やったというだけで体調の仕上がりは期待できません。これも実は隠れた典型的な調整の失敗例ではないかと思います。最終負荷は、諸々の機能を、トレーニングの水準からレースの水準へ引き上げることを目的としていますので、それ自体が快調に、速く走れなくても心配することはありません。思ったよりキツかったということで不安になることもあるのですが、これをやったことで体調が引き上がるのだということを理解することが重要です。ただし、繰り返しますが、疲労が抜け切らずに刺激が走れなかった、という場合は除きます。


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おトクな起伏トレーニング

  欧米をはじめとした諸外国のトレーニングと、日本のトレーニングとの違いの一つに、コースの設定:平地を走るのか、起伏地を走るのか、ということがあります。もちろん、何よりも地形的な問題がありますが、日本人の几帳面な性格もあって、国内のトレーニングは、距離・ペースを綿密に設定して、その通り実行していこうという指向性があります。

 そうすると、ペースの不確定要素を多く含む起伏地よりも平坦なところでキッチリやろうという部分がどうしてもでてきます。海外のトレーニングでは、大雑把な性格と地の利を活かしたクロスカントリーが盛んです。特に、基礎持久力を養成する段階でのクロカンの利用は、自ずと筋持久力をはじめとする総合体力の強化を促進することになり、かなりおトクな効率の良い方法であるといえます。更にはスピード持久力養成後、スピードトレーニングに備えての脚筋力養成に、起伏・坂道を利用したインターバル走なども効果的です。

 このように、起伏地を利用したトレーニングは、より過剰な負荷(過負荷)を身体にかけることにより、1ランク上のスピードやパワーの獲得を期待することができます。従来、外国選手と日本選手の5000mまでの種目のスピードの違いは、先天的な資質の違いであって、どうしようもないことだと理解されてきましたが、100mでも日本人が世界を狙うご時世、意外とこういう基礎体力の養成段階での差が上乗せされているだけの結果なのかもしれません。スピードの差は、近年、10000mやハーフマラソンでも顕著となってきており、日本のお家芸マラソンもうかうかしていられない時代が来ている感じです。


 確かに諸外国に較べ、地形的な不利は明かで、国内のチームは、長期合宿でもしない限り、継続的な取り組みとするのは難しいにも事実です。ただし、起伏地は無い無いという中にもあるもので、本格的な山岳地帯や高原でなくても、なんとなくイケそうなところは都市部近郊でもけっこうあります。ましてや普通の坂道なんてのは、むしろ日本中、どこにでもありますよね。欧米並みとはいかなくても、要は工夫次第ということです。

 

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